谷澤メモ

SOLVE/RESOLVE、AutoSHARPを使った手法との違い

SOLVE/RESOLVEについて

SOLVE/RESOLVEは、最後の分子モデルの構築まで、人による判断を省いて全自動化されています。このため、ある意味無駄な計算が多く(プログラムがいろいろと試みるということ)計算にずいぶん時間がかかり、一度走らせると終わるまで平気で数時間から1日かかります。

以前から、データ収集後、分子モデルの構築までに行われてい たステップは次のとおりです。

  1. 重原子(異常分散を起こす)の位置を決める。
  2. 初期位相を計算する。
  3. Density Modification(電子密度図の改良)により初期位相 の誤差を減らす。
  4. 分子モデルをプログラムで自動構築する。

ここで紹介した手法では、以下のように行っています。

  1. SHELXで重原子(異常分散を起こす)の位置を決める。
  2. CCP4のMLPHAREで初期位相を計算
  3. CCP4のDMで位相を改良
  4. ARP/WARPで分子モデルを自動構築

SOLVE/RESOLVEでは、この4ステップを2つのプログラム で自動化しており、少し細かく見ると

が分担しています。この分担を知らなくても、SOLVE/RESOLVE 実行用のシェルスクリプトがあるので、これにSCALEPACKのSCA ファイルかCCP4のMTZファイルを入力して、計算を始めて数時 間〜数日待っているとPDBファイルが出力されてきます。

AutoSHARPについて

さらに、AutoSHARPですが、

が行っています。4の分子モデルの構築操作は含まれません。 単に「SHARP」と言った場合、位相計算を行うプログラムを指 しますので注意して下さい。

それぞれの比較

さて、どの方法が優れているかの比較ですが、 1のステップは、MAD、SAD、SIR、MIRとも直接法のSHELXかSnB を使えば十分だと思います。SOLVEは、CrやCuのNative結晶のSAD のデータでは、重原子の位置を正しく見つけてくれませんでし た。SeMetのような重原子データではSOLVEもうまく行くのでし ょう。

2のステップでは、SHARPとMLPHAREはほとんど同じ結果を与え ます。SOLVEは経験不足のためわかりません。

3のステップはSOLOMONよりDMのほうが少しいいみたいです。RESOLVE もDMと同じくらい良い結果を与えます。

4のステップは、2Aを越える高分解能ならばARP/WARPですが 、2.6A前後の低分解能ではRESOLVEが優れています。どちらの プログラムもREFMAC5とペアーを組んで、精密化も同時に行っ てくれます。特に高分解能でのARP/WARPは強力で、リゾチー ムのCuの1.8Aのデータでは、得られたモデルをこれ以上精密化 する必要はほとんどありませんでした。なお、2.5A程度のいわ ゆる「普通」のタンパク質では、RESOLVEを使うべきだと思い ます。

ただ、RESOLVEは、計算時間が掛かるみたいで、Crの2.2Aのリゾチームのモデル構築でも7時間以上は優にかかります。ノートPCには、いささか荷が重いようです。(ファンがずっと回りっぱなし)

ARP/WARPなら、Cuの1.8Aのデータで1時間位で129残基中127 残基を正確に作ってくれます。

分子モデルの自動構築プログラムのおかげで、少し前のように グラフィックスディスプレーの前に何日も座って、分子モデル を組み立てる/修正することから、ほぼ開放されました。

運が良ければ、MAD/SADでデータ処理を始めた日の夕方か(ARP /WARP)、遅くとも次の日の朝(RESOLVE)には、構造が得られま す。


結論として、

  1. 解析を始めた日の朝に、まず、SOLVE/RESOLVEをスタート させてほっておく。結果は、お昼か、夕方か、次の日の朝に確 認する。
  2. 別のコンピュータを使って、(半分は自分の楽しみのため) オーソドックな方法で構造を解いてみて、SOLVE/RESOLVEより 早く解けた場合、自己満足を得る。
といったところではないでしょうか。2は、SOLVE/RESOLVEが 失敗したときの保険にもなります。

ただし、精度の良いデータを測定していないと、上のどちらの 方法も失敗しますので、それだけは注意して下さい。


Copyright © 2005 HIDEKI TANIZAWA